思い出にさようなら

幸せな時間はあっという間に過ぎゆくもの。

19歳で東京に行った僕にとって、夏と冬、地元福岡で過ごす長期休暇は何日休もうが一瞬で過ぎ去ってしまう幻みたいな存在だった。だからこそ、その一瞬を一生忘れないために僕は地元に帰る度、たくさんの友達に声をかけてはバカなことをやっていた。

 

 

これはそんな僕の5年前の思い出話。

 

 

 

 

 

 

 

思い出にさようなら

 

福岡最終日。

キャリーバックを転がしながら、今年の冬を振り返る。楽しい時間はあっという間で、たくさんの思い出たちはキャリーバックに詰めた荷物以上に重い。そのせいで空港に近づくに連れ、僕の足取りも重くなっていった。

ようやく空港についた僕は、いつも通りの手順でチェックインを済ませ、手荷物検査場へ。

 

いつも通り。

そういつも通り。

だがゲートをくぐるとやはり、寂しさがこみ上げる。

こみ上げる感情をグッと堪えて、前を向き、そして歩く。

そしてゲートをくぐったところで、いつも通り僕は警備員に止められた。

恐らく手荷物にライターが二本以上入っていたのだろう。大抵、手荷物に詰めた洋服のポケットに入っていることが多く、一度荷物をばらさなければならない。

手荷物の中身を拝見してよいかと尋ねる警備員の態度は実に高圧的である。しかし、こちらも東京人。高圧的な態度に対してさらに高圧的な態度で、時計を気にしながら、マジでだりぃんすけど~的な感じで、首を縦に振る。

すると、警備員は真剣な表情でこちらを見つめ、僕に問いかけてきた。

 

 

 

 

 

手錠をお持ちではないですか?

 

 

 

 

 

答えはYESだ。

年越しの時、僕は手錠を付けてカウントダウンを叫んでいた。友人と悪ふざけでやっていたのだが、僕はその思い出の手錠をワクワクしながら鞄に詰めた覚えがある。

やられたよ。

すべてお見通しというわけかい。

だが、ここで引くわけにはいかない。なぜなら僕は東京人。そしてこの思い出は僕の宝であり、次の長期休暇までに必要な栄養なのだから。

 

これのことですか。持ってますが何か?

 

持ってます。そう、あの変な機械を通った以上、手錠の姿はCTでハッキリと見えているのだろう。だからここで下手な嘘をついても意味はない。大事なのは、えっ、パンツ履いてますよ。ぐらいの気持ちで僕は手錠を所持しているのだと相手に認識させることである。

 

警備員:手錠はちょっと…

その口調から警備員に戸惑いが感じられる。もう少し。あと一押しだ。

 

僕:友達からもらった大事なものなんです!

引かない。引いたら負けだ。

福岡の思い出達が僕を奮い立たせる。

 

警備員:上に聞いてみます。

僕:お願いいたします。

 

勝った。安堵の気持ちでいっぱいだった。と同時に戦いの中で生まれた手錠に対する熱い思いに僕自身、驚いた。

 

 

 

そして気づく。

 

 

 

「友達からもらった大事な手錠」

 

 

 

完全に気持ち悪い。

その答えに至った瞬間。僕は警備員の答えを待たずにその場を去った。

その足取りはたくさんの思い出をもろともにしない、実に軽やかなものだった。

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